知られざる話、恐都
オレは3歳頃からここに来るまでずっと、京都市左京区岩倉という地に住んでいた。もちろん、その「岩倉」というのは岩倉具視からきている訳だが、今回はあの辺り一帯に纏わる噂をご紹介しよう。まず、あの地は標準的な日本の街と比べて、桁外れに歴史が長い。京都1200年とかそういう話ではなくて、後で述べる池に至っては、14万年という歴史を誇っている。しかも、それがほとんどそのままの状態で残っているから恐ろしい。
オレは小さい頃から付近の宝ヶ池や岩倉の公園などで遊んでいて、日本中どこでもこういう景色なのだろうと思い込んでいた。やや鬱蒼としているものの、田舎だからしかたないということにしてた。しかし、近年になって資料館やインターネットであの地のことを調べたところ、どうも様子がおかしいのである。岩倉や宝ヶ池一帯を表す言葉を並べてみると、山・城跡・坂・池・遺跡や病院ということになる。勘のいい人はもうお気づきだろうが、京都北部の地は、日本最大の幽霊のメッカなのである。最も有名なのは、わら人形の貴船神社と口裂け女の深泥池であろう。先に断っておくが、オレはそういうものは全く信じていないし、見たこともない。では、なぜこの地の幽霊の話をしようと思ったかというと、いつ幽霊がでてもおかしくない歴史的背景が存在するからだ。
世の中には、この地のことを全く知らないのに「あそこはでるぞ」とか適当なことを言いつづけている人たちがいる。オレも詳しいわけではないが、ある程度の事は分かるので、ここからオレの視点で考えた「ありうる話」を列挙してみようと思う。ちなみに、これから述べることはどこにも載っていない話が多いので、ちょっと得した気分になってもらってもかまわない。
一番有名かつ恐ろしい話は、深泥池の幽霊だ。あの池、昼間に行っても怖い。オレは肝試しとかそういうので、一切怖がる人間ではないが、歴史を知っているから身震いがする。深泥池は日本でも1・2を争う古い池である。京都市内に14万年も鎮座しているから、それだけで不思議だ。その池のほとりにぽつんと一軒の病院が立っている。他府県の人はあまりこの病院に目が留まらないようだが、この病院が全ての鍵を握っている。この病院は戦前からその場所に立っていて、結核が大流行した時代に一役を担っていたそうだ。しかし、京都の結核患者のほとんどがその病院に集中したため、手が回らなくなった。もちろん、死者も数多く出た。人通りもなく、底なし沼と思われていた池のほとりに立っている病院。結核患者の死体は、毎晩のようにその池に沈めて、処理したようだ。その中には、生きたままの患者が混じっていたかもしれない。その後、その病院はなぜか精神病患者中心の病院に生まれ変わった。そこに入院すればどんどん症状が悪化し、またその池に自ら投身したそうな。今は、異様なほど鉄格子が張り巡らされている。最近の調査で深泥池は底なし沼ではなく、水深20bの池だと確認された。それでも、20メートルは深すぎる。一回はまってしまえば、誰も助からないではないか。なぜなら、池の中に草木が生い茂っていて、もがけばもがくほど足が絡まって動けなくなるからだ。
深泥池にはもうひとつ、噂が流れている。観光バスがまるごとその池に落ちたそうな。これは事実の確認が取れていないので、詳しくは分からないのだがバスの乗客は全員死亡。必死で捜索したが、白骨は半分近くしか見つからなかったそうだ。深泥池沿いの道は驚くほど狭い。それでも大型バスは、何台も通っている。大型バス同士なら、すれ違えない狭さ。他府県から来たバスが、運転を誤って転落した可能性もある。運転を誤るポイントは、限りなく先ほどの病院に近いはずだ。平安時代ぐらいからお偉いさんがこの池に訪れていたという記録もある。太古の昔から一体何をしていたのだろうか。現在も池に面して立っているマンションには、逸話が多い。また、タクシー業界では深泥池へのお客さんに限り、乗せなくてもいいことになっているらしい。以上を踏まえると、幽霊(口裂け女)でてもおかしくないでしょ。
個人的には、深泥池よりももっと恐ろしいスポットがある。それは、山を挟んで深泥池のすぐ隣にある宝ヶ池だ。正確に言うと、その池に通じる狐坂という急傾斜の坂を指す。あそこを真昼間に一人で歩いたのだが、無性に背中が冷たくなった。とてもゆっくりは、歩けなかった。その坂には歴史的背景と幽霊目撃情報と事故発生件数が、あまりにも多すぎる。そして、坂を下りきったところに死んでくれといわんばかりの超急カーブが待っている。そのカーブから半径20メートル以内に不自然な墓場と神社と清水が湧き出るところがある。紫式部が訪れたというのだから、この辺りの歴史の深さがうかがえよう。
幽霊の直接的な原因になっているのは、急カーブが引き起こす事故だろう。カーブのところから下を見下ろすと交通量と見晴らしの良さから賑やかさを感じるのだが、車が落ちたであろうと思われる坂の下から見上げると、恐ろしいほど静かで不気味な雰囲気が漂っている。ちょうど清水が流れている位置に運転を誤った車が着地することになる。事実として、何度も車やバイクが坂の下に転がっているはずだが、清水の場所だけ無傷なのが不思議でならない。何度も何度も車のぶつかった跡のあるフェンスが、痛々しい。
以上のことは何の根拠も事実もなく、述べています。ですから、これらは正確であるはずもなく、この記事に関する責任は一切もてませんので、ご了承願います。感想だけはお待ちしています。